WCRの品種カタログにおいて「矮性」、カップ品質が「Very Good(4/5)」、最適標高が「低標高」という条件で絞り込むと、
が残りました。いずれも、コーヒー葉さび病の耐性があり、炭疽病にも比較的強いようです。
このうち、Esperanza はさらに線虫耐性もある程度あるようです。Esperanza は、コスタリカでは人気の高い品種で、多雨と高湿度の条件下の栽培も良好をという報告もあます。ただし、コーヒー葉さび病に強いティモール系の T5296 とエチオピア在来種との交雑から生まれた交雑種 (F1)であり、自家採種による増殖は無理であり、クローン培養が必要になります。WCRの「very good」のカップ品質評価も高標高地での期待値であり、沖縄で栽培してみないと分からない部分も大きいです。
両者ともコーヒー葉さび病や炭疽病への耐性を持ち、特にEsperanza はコスタリカなどの多雨・高湿度の条件下でも良好な結果を出しており、線虫への耐性も持ち合わせています。沖縄での線虫被害は今のところ大きな問題にはなっていないようですが、しかし、コーヒーの主要産地では線虫が重大な問題になる地域があます。線虫抵抗性は品種選択上の一つの利点です。
また、WCRのカップ品質「Very Good」という品質評価も、本来は高標高地での栽培を前提とした期待値です。しかし、沖縄は亜熱帯(北緯26度)に位置するため、熱帯の低標高地帯とは異なり、冬期の冷え込みが実の成熟を遅らせ、高標高地に近いカップ品質を生み出す可能性も秘めています。
しかし、F1品種は、自家採種による増殖ができず、種苗確保には組織培養が必要になるという調達・コスト面のハードルを抱えています。
台風対策の観点では、矮性などの樹形だけでなく、根系の発達も重要です。F1ハイブリッドには雑種強勢によって旺盛な生育を示すものがあり、根系についても優れた特性を示す例があります。一方、組織培養苗では幼苗期の根の形態異常が生じることも報告されており、品種だけでなく育苗方法にも注意が必要です。
とはいえ、中南米などの大規模農園はともかく、沖縄の規模であれば、挿し木で対応できると思われます。固定種と交雑種も参照してください。
ただし、「矮性=台風に強い」とはいう言い切れません。台風への強さは品種だけで決まるものではありませんが、品種選択の段階では、樹高が低く樹冠がコンパクトな品種、枝折れしにくい樹形、根張りのよい品種などが候補になります。
樹高:低いほど風圧を受けにくい(これが「矮性」)
樹冠の形・大きさ:コンパクトなほど風を受けにくい
枝の強さ:枝がしなやかで折れにくい、裂けにくい
幹の太さ・樹形:主幹が太く重心が低いと倒伏し難い
根系の発達:初期の根張り×根が深い×横方向への根の張り×移植後の活着
再生力・回復力:立ち直りの早い品種
塩害耐性:海水飛沫による葉・枝の障害
早期結実・樹体形成:幼木期
Morales Peña et al. (2024a) Morales Peña et al. (2024b) によると、Esperanza は、コスタリカのカリブ海沿岸という低地の高温・多湿条件で完熟チェリーで3トン/haを超える収量を確認しています。
試験地:コスタリカのリモン州、グアシモ郡にあるEARTH大学の森林農場の敷地内
標高:海抜43m!
座標:北緯10°13′00.0″、西経83°35′27.0″
平均気温:25℃(気温は24時間で20℃から33℃の間で変動する)
年間降水量:3701.99 mm
平均相対湿度:86%
最大日射量:0.85 MJ/m 2 -日
ただし、この結果は、低地の厳しい環境をアグロフォレストリーによって緩和し、施肥設計を組み合わせた肥培管理の必要性も示しています。これは、「Esperanzaなら標高43 mでもコーヒーが作れる」というよりも、むしろ「低標高という不利な条件を、Esperanzaなら栽培環境の設計で補える」と理解した方がよいでしょう。つまり、低地の高温・強日射・多雨というストレスに対して、どう日陰樹を利用してコーヒーの微気候を制御するかという課題に、Esperanzaという品種で成功していると読むべきです。
WCRのカップ品質「very good」という評価について、これはあくまで高標高での評価と断られています。アラビカ種の原産地エチオピアは、高標高にあり、一日の温度差が大きく、年間の温度差はあまりないです。これに対して沖縄は、一日の温度差が小さくて、年間の温度差が大きい、真逆の条件にあります。
高標高だと、赤道近くでも平均気温が下がります。平均気温が下がると、果実の成熟速度が遅くなります。そうすると、果実は長い時間をかけて充実し、カップの品質は上がります。
さらに、同じ平均気温でも一日の温度差が大きいほどカップ品質は上がると言われます。しかし、これについては、温度差というよりも、むしろ夜間の平均気温の方が重要だという報告があります。Craparo et al. (2021) によると、収穫期を左右するのは夜間の平均気温(開花期から果実収穫日まで)であって、これが15℃の場合にコーヒーチェリーの成熟が最も遅くなるようです。 高標高地であるエチオピアは一年中夜間は15℃程度なんですね。
一方、沖縄は亜熱帯(北緯26度)に位置するため、熱帯の低標高地帯とは異なり、冬期の冷え込みが実の成熟を遅らせ、高標高地に近いカップ品質を生み出す可能性があるという人もいます。とはいえ、開花から結実までは夏の酷暑を過ごさなければなりません。成熟期に入った11月ごろから夜間の気温が15℃程度となります。これによる成熟速度の低下に期待するところです。沖縄のコーヒーは一斉に開花して一斉に成熟しません。できるだけ遅く収穫したコーヒーのカップ品質が高いと期待できるということでしょうか?
少なくとも、開花時期ごとに、開花から成熟までの成長速度を測定するという作業は必要かもしれません。
データ:農研機構、メッシュ農業気象
沖縄で線虫がどの程度問題になるかはまだ分かりません。しかし、コーヒーの主要産地では線虫が重大な問題になる地域があり、線虫耐性は品種選択上の一つの利点とされています。
線虫対策で有名なのは、ハワイのコナ地区です。これを指してサトウキビ畑跡のコーヒー栽培は線虫リスクがあるという記述を見かけることがありますが、サトウキビ畑にいる線虫とコーヒーノキを脅かす線虫とは別種であるという指摘があります。ハワイでサトウキビ畑からコーヒー園に転換したの圃場の調査では、線虫の種類の転換が確認されています。Schenck and Schmitt (1992)
沖縄のサトウキビ畑にいる線虫は、久米島と北大東島の調査では、ネグサレセンチュウ、イシュクセンチュウ、ラセンセンチュウ が占有しており、コーヒーに被害を与えるネコブセンチュウではないようです(河野辺・宮丸, 2016)。ただし、沖縄の農地には植物寄生性線虫がかなり存在しているのは間違いなく、その構成は地域によって違います。したがって、以下のような樹を調べて、コーヒーに対する宿主性を確認する必要はあるように思われます。
生育が悪い樹
葉色が悪い樹
水や肥料を与えても回復しない樹
根が少ない樹