アラビカ種は、カネフォラ種(いわゆるロブスタ)とユーゲニオイデス種という2つの野生種が、エチオピア付近で自然交雑して生まれたと考えられています。アラビカ種の特徴の一つが自家受粉が可能なことです。自家稔性と言います。カネフォラ種が別の木の花粉を必要とするのに対して、アラビカ種は1本の木だけで実をつけることができます。手間をかけなくても勝手に受粉してくれます。
アラビカ種は自家受粉が可能なこともあり、世界で栽培されているアラビカ種は遺伝的にはあまり多様ではありません。もともと、コーヒーを飲料として飲んでいたのはイエメンだそうですが、1600年頃ティピカ種がインドへ持ち出され、インドからインドネシアを経由して、1720年にオランダへと渡ったとされます。そこで、繁殖と選抜が行われ、その後、東南アジア、中南米へと伝わっていきました。ブルボン種もやはりイエメンからブルボン島(現レユニオン島)に渡り、1840年にアフリカ大陸へ、1860年にブラジルに持ち込まれたそうです。
その後、品種は多様化していくのですが、そのほとんどがティピカかブルボンの変異品種であったり、それらの交配によるものだったりします。なので、一見多様に見えるアラビカ種の品種も遺伝的にはかなり近似しているようです。
一方、もともとのアラビカ種の原産地エチオピアには、多様な原生品種が存在しています。ティピカ系でもブルボン系でもない品種もあって、そのうち有名になったものの1つがゲイシャです。
自家受粉または同品種との交配でできた種子から親と同じ特性の木ができるような品種は「固定種」と呼ばれます(栽培学では正確には「純系(pure line)」と言います)。アラビカ種の固定種は、生産者が自家採種で増殖できます。ブルボン、ティピカ、ムンド・ノーボ、カトゥーラといった品種は固定種です。
生産性やカップ品質、病虫害耐性で優れた品種を新たに確立するには、そうした特性がすぐれた木を選抜します。そして、その木で自家受粉をさせ繁殖させます。この手順を繰り返すと木の特性が世代間で安定します。これが固定種と呼ばれるものです。どのくらい繰り返せばよいかというと、だいたい8~9世代、年数でいうと20~30年かかるようです。
異なった品種を交配して得られた種は交雑種です。例えば、樹高を決める遺伝子A(矮性)とa(高性)があったとき、遺伝子は2つセットなので、矮性固定種の親木はAA、高性固定種の親木はaaの遺伝子を持っています。この2種類を交配すると子木の遺伝子はAaです。この場合、Aかaのどちらかの特性が子木に出てきます。顕性遺伝または優性遺伝といいます。、2種類の固定種を交配した場合、その子木を雑種第一代という意味でF1と呼びます。Aの方が顕性だとするとF1種はAの特性である矮性が現れます。
もう一つの単収を決める遺伝子B(多)、b(少)があって、Bの方が顕性だとします。矮性の固定種はbb、高性の固定種はBBの遺伝子を持っているとします。その場合、2つの固定種の交配は、AAbb(矮性・少収量)とaaBB(高性・多収)の組み合わせになるので、F1種の遺伝子はAaBbとなり、矮性で多収の品種が出来上がります。
交雑種には問題もあります。F1どおしを交配した場合、次の世代(F2)では、F1と同じ特性が維持できません。AaとAaの交配により、AA、Aa、aaの3種類ができます。さらに、AaBbとAaBbの交配だと、AABBからaabbまで16通りの組み合わせ(遺伝子型として9通り)ができてしまいます。これから固定種AABBを作ろうと思ったら、根気よく選抜を繰り返すしかありません。
これはこれは仕組みを理解するための単純化した例で、実際の形質はもっと多くの遺伝子が関わっており、さらに複雑です 。だから、固定種を得るためには8~9世代の自家採種の繰り返しで、20~30年かかるという訳です。
例えば、パカマラという品種がありますが、これはパカスとマラゴシッペという品種の交配から生まれました。それからエルサルバドル・コーヒー研究所(ISIC)によって選抜作業が進められましたが、選抜は途中で終了しており品種としては完成していないそうです(WCR)。つまり、パカマラの自家受粉の種を植えても、それはパカマラの特質を受け継いだ木にはならない可能性があるということです。
F1種は、種子で増やそうとすると、その子F2からは特性がバラバラになります。そのため、種子による繁殖より手間はかかりますが、無性生殖(栄養繁殖)が行われます。WCRが紹介している無性生殖法は以下の4つです。
体外生殖:親株の分裂組織(未分化細胞からなる組織)を無菌条件下で導入し、その後、試験管内で増殖させて新たな芽(シュート)を形成させる方法。
体細胞胚形成:親株のわずか数個の葉から数百万株のクローン植物を得ることを可能にする革新的な組織培養技術。この技術はF1ハイブリッド(一代雑種)の大量増殖を可能にしますが、高度な技術力を備えた苗生産施設を必要とします。
園芸的試験管外増殖(ミニ挿し木):母株から挿し穂を採取し、園芸用トレイや発芽器内で発根させます。低コストかつ高度な技術を必要としない方法ですが、母株1株あたりの年間増殖数には限りがあります。
接ぎ木:前述の挿し木と同様に母樹から挿し穂を採取し、ロブスタ種の台木に接ぎ木します。
WCRのレポートでは、F1の増殖はコスト高になるという懸念が出されていますが、沖縄の規模であれば、挿し木か接ぎ木でも大丈夫ではないかと思います。WCRは、このうち線虫耐性と固定力からロブスタ台木への接ぎ木を強く推奨しています。
>>接ぎ木の方法については、改めて「育種」で扱います。